お家寄席56・本膳
さて、今日は「本膳」の一席です。
大家の冠婚葬祭では「本膳」なる行事があるんですが、このマナー・エチケットが難しい・・・。
・・・ではこちらは、平成17年9月12日の作品です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
9月12日 「本膳」の一席を…
毎度、お運びいただきやして、うれしい限りでございやす。
まあ、どんな時でも、エチケット・マナーってぇのはついてまわりますな。今だって、たとえばパソコンやってホームページを開いて、掲示板で発言するのも、チャットをやるのでも「ネチケット」ってぇがありやして、気を使わなけりゃならねぇ。
人の見ていないところですからな。いつ、自分の発言で人を傷つけるかわかりやせんから。
したがって、ホームページを開きやしたら、真っ先にあっしのところに来ていただければ大丈夫ですからな。
で、粗忽亭の落語を見て「わはは」とバカになってればいいんで。で、ほかのサイトに行ったら元に戻ればいいんですな。なかには元に戻らない方も。いやいや、そんな方はいらっしゃらねぇでしょうがな。
とにかく、こちらの「お家騒動記」もよろしくお願いいたしやす。おあとがよろしいようで、…って帰っちゃっちゃぁいけねぇ。まだ本題にも入ってませんのに。
殊にマナーの中でも食事のマナーは難しいですな。
西洋料理が結婚式に出たんですが、外のフォークから使うってぇエチケットを身に付けていざ、実行しやしたら怒られましてな。
気付いたら、隣の人のフォークを取っていやして。
とにかく料理のマナーは難しいんで。
さて、今日はその食事のマナーがわからねぇとどうなるか、ってぇ落語でして。
「先生様よ~、先生様」
「なんだね~。村人そろって。ま、ここじゃなんだべ。中に上がれや」
「…いえね、先生様のところにもきっと届いてるんじゃなかろうかって思ってんじゃがよぅ。庄屋さん家(ち)から、息子が結婚するんで、明日の晩、お祝いの「本膳」の寄り合いがあるからっちゅうて、集まってくんろ…なんてぇ挨拶状(あいさつじょう)がおらんとこに届いたんだ。で、茂十どんや長兵衛どんたちん家(ち)にも届いたんじゃがな。誰も『本膳』ってぇんが何だか知らねぇんだんべ」
「で? こんなにわしんとこに集まったわけはどういうことだ?」
「先生様よ。聞いておくんなせぇまし。そのうちに事がいかく大事(おおごと)になりましてぇな。
『おめぇんとこ、本膳知ってるか~?』
『いや、おらぁ、知らねぇ』
『われも、知らねぇ』
ってぇのばっかりでして。なかには、
『知らねぇから夜逃げすんべ』
なんてぇ人も出てくるわで…。
んで、そんだらば、ここじゃ一番の物知りじゃし、塾をやってるからってぇんで先生様んところに集まってだに、『本膳』ってぇもんを教(おす)わろうかってことでここを訪れた次第で…」
「なるほど。そうだか? ただ、わしも本膳は見よう見真似でやったくれぇで、あまりよくはわからんのじゃが、こうしなされ。明日の晩、わしが上座に座るから、全員わしの真似をしなされ」
「先生様~。助かっただ」
その晩はみんな、安心して帰りやしてな。
烏(からす)カーで夜が明けやして、カエルゲコで雨が降りやして、梟(フクロウ)ホーでまた夜になりやした。
でもなんで「烏カーで夜が明けて」なんて常套句(じょうとうく)があるんでやんしょう?
それはさておいて、フクロウホーで夜になりやして、早速宴(うたげ)が始まりやしてな。
「じゃあ、みんな~。これからご挨拶をするんでな。ドタマ(頭)下げろ~。下げたか?
おい、どんどろ坂の茂十、ドタマ下げろって。何ぃ? これ以上ドタマが下がんねぇ? 下げたら足が短けぇからはずみで前のお膳をひっくり返すって?…まぁ、おめぇのドタマは長(なげ)えし、足はド短足だもんな。じゃ、一歩下がって少しだけ下げろや…。下げたか? じゃ、ドタマ上げ~ぃ。
…で、最初に、汁の椀(わん)取って、ひとすい汁を吸って、それから椀を元のところに置くだ」
「先生様、椀が取れねぇだよ」
「そんな時は、椀の横を持って捻(ひね)って取るだよ」
「先生様、ふたくち吸っちまっただよ」
「欲張り野郎。少し戻せ~」
先生、さすがに一日(いちじつ)の長でして、そこは無難にこなしていきやしてな。
ところが、なにしろ田舎のことですから、ご飯が大盛りで出てやしてな。食べようとするとご飯粒がうっかり3粒、鼻の頭についちまいやして。
「あ~りゃ。本膳、難しいど。飯(まんま)食うんでも飯粒(まんまっつぶ)を鼻の頭に3粒乗せなきゃいかんだに。うまく乗るかなぁ」
「おら、脂性で、うまく乗らんぞ…よいしょっと。あ、また落ちただ…」
「だめだなぁ。こうするだよ。飯粒につばをつけて…」
「おらんとこ、うまく乗っただが、おめぇさんの鼻の頭、4粒乗ってんど」
「じゃ、1粒茶碗に戻すべ」
先生、呆れながら、サトイモに取り掛かりやす。ところが塗り箸(ぬりばし)でうまく芋が取れねぇ。取ろうとすると芋がつるっと滑りやして、ころころ。
「先生様の行動、見ただか? 芋はこうして転がして取るだな?」
周りはいっせいにころころガチャガチャ…。作法も何もあったもんじゃありやせんでな。
なかには、膳から転がり落ちた芋の取り合いまでありやして…。
「あ、おめえさん。おらの芋、取っただな。泥棒!」
「いや、これはおらの芋だよ。おめぇさんのはあっちへ転がって行っただ」
OBなのにゴルフのロストボールを捜してるような、間抜けな光景まであったりしやしてな。
先生、何をやっても真似するんで呆れやしてな。
「おめぇら、いい加減にしろ」
と言わんばかりにちょっと隣を肘(ひじ)でつきやしたら、隣がこの拍子にドンと転びやして。
「…いってぇ。礼式って痛ぇもんなんがなや。おい、隣の。受け取れ」
「おら、そんな礼式、いらねぇだよ」
「そうはいかん。礼式だべ。黙って受け取るべ。で、受け取ったら受け取りも書いて判を押せ」
「じゃ、お手柔らかにお願(ねげ)ぇしますだ」
「そうはいかねぇだよ。それにおら、さっきおめぇにサトイモを取られた恨みもあるでな、覚悟しろや」
ドン、ドン、ドン(どつく音)。パタパッタ(倒れる音)。ドド~ンガドン(恨みでどつく音)。ボタボッタ(血が滴る音)…。
ここんとこ芸が細かいですな。
それに粗忽亭、人のギャグも平気で取りやすからな。
笑わせるためなら手段を選ばず~。
まるでどつき漫才みてぇに次々に伝達されていきやすな。
「…おい、礼式って痛いもんだなや」
で、どんどん隣をどつきやしてな。順繰りにこの怪しい礼式をこなしやすが…。
最後の32番目の男が、
「さぁて、いよいよおらの番だぞ…思いっきりどつくぞ!」
…と肘を出してどつく準備をしやしたが、隣は壁でしてな。
「あんのぅ…先生様よぅ。この礼式はいってぇどこにやればええんだか?」
えー、今日は「本膳」というお噺でご機嫌をお伺いしやした。
おあとがよろしいようで…。
m<●>m!
大家の冠婚葬祭では「本膳」なる行事があるんですが、このマナー・エチケットが難しい・・・。
・・・ではこちらは、平成17年9月12日の作品です。
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9月12日 「本膳」の一席を…
毎度、お運びいただきやして、うれしい限りでございやす。
まあ、どんな時でも、エチケット・マナーってぇのはついてまわりますな。今だって、たとえばパソコンやってホームページを開いて、掲示板で発言するのも、チャットをやるのでも「ネチケット」ってぇがありやして、気を使わなけりゃならねぇ。
人の見ていないところですからな。いつ、自分の発言で人を傷つけるかわかりやせんから。
したがって、ホームページを開きやしたら、真っ先にあっしのところに来ていただければ大丈夫ですからな。
で、粗忽亭の落語を見て「わはは」とバカになってればいいんで。で、ほかのサイトに行ったら元に戻ればいいんですな。なかには元に戻らない方も。いやいや、そんな方はいらっしゃらねぇでしょうがな。
とにかく、こちらの「お家騒動記」もよろしくお願いいたしやす。おあとがよろしいようで、…って帰っちゃっちゃぁいけねぇ。まだ本題にも入ってませんのに。
殊にマナーの中でも食事のマナーは難しいですな。
西洋料理が結婚式に出たんですが、外のフォークから使うってぇエチケットを身に付けていざ、実行しやしたら怒られましてな。
気付いたら、隣の人のフォークを取っていやして。
とにかく料理のマナーは難しいんで。
さて、今日はその食事のマナーがわからねぇとどうなるか、ってぇ落語でして。
「先生様よ~、先生様」
「なんだね~。村人そろって。ま、ここじゃなんだべ。中に上がれや」
「…いえね、先生様のところにもきっと届いてるんじゃなかろうかって思ってんじゃがよぅ。庄屋さん家(ち)から、息子が結婚するんで、明日の晩、お祝いの「本膳」の寄り合いがあるからっちゅうて、集まってくんろ…なんてぇ挨拶状(あいさつじょう)がおらんとこに届いたんだ。で、茂十どんや長兵衛どんたちん家(ち)にも届いたんじゃがな。誰も『本膳』ってぇんが何だか知らねぇんだんべ」
「で? こんなにわしんとこに集まったわけはどういうことだ?」
「先生様よ。聞いておくんなせぇまし。そのうちに事がいかく大事(おおごと)になりましてぇな。
『おめぇんとこ、本膳知ってるか~?』
『いや、おらぁ、知らねぇ』
『われも、知らねぇ』
ってぇのばっかりでして。なかには、
『知らねぇから夜逃げすんべ』
なんてぇ人も出てくるわで…。
んで、そんだらば、ここじゃ一番の物知りじゃし、塾をやってるからってぇんで先生様んところに集まってだに、『本膳』ってぇもんを教(おす)わろうかってことでここを訪れた次第で…」
「なるほど。そうだか? ただ、わしも本膳は見よう見真似でやったくれぇで、あまりよくはわからんのじゃが、こうしなされ。明日の晩、わしが上座に座るから、全員わしの真似をしなされ」
「先生様~。助かっただ」
その晩はみんな、安心して帰りやしてな。
烏(からす)カーで夜が明けやして、カエルゲコで雨が降りやして、梟(フクロウ)ホーでまた夜になりやした。
でもなんで「烏カーで夜が明けて」なんて常套句(じょうとうく)があるんでやんしょう?
それはさておいて、フクロウホーで夜になりやして、早速宴(うたげ)が始まりやしてな。
「じゃあ、みんな~。これからご挨拶をするんでな。ドタマ(頭)下げろ~。下げたか?
おい、どんどろ坂の茂十、ドタマ下げろって。何ぃ? これ以上ドタマが下がんねぇ? 下げたら足が短けぇからはずみで前のお膳をひっくり返すって?…まぁ、おめぇのドタマは長(なげ)えし、足はド短足だもんな。じゃ、一歩下がって少しだけ下げろや…。下げたか? じゃ、ドタマ上げ~ぃ。
…で、最初に、汁の椀(わん)取って、ひとすい汁を吸って、それから椀を元のところに置くだ」
「先生様、椀が取れねぇだよ」
「そんな時は、椀の横を持って捻(ひね)って取るだよ」
「先生様、ふたくち吸っちまっただよ」
「欲張り野郎。少し戻せ~」
先生、さすがに一日(いちじつ)の長でして、そこは無難にこなしていきやしてな。
ところが、なにしろ田舎のことですから、ご飯が大盛りで出てやしてな。食べようとするとご飯粒がうっかり3粒、鼻の頭についちまいやして。
「あ~りゃ。本膳、難しいど。飯(まんま)食うんでも飯粒(まんまっつぶ)を鼻の頭に3粒乗せなきゃいかんだに。うまく乗るかなぁ」
「おら、脂性で、うまく乗らんぞ…よいしょっと。あ、また落ちただ…」
「だめだなぁ。こうするだよ。飯粒につばをつけて…」
「おらんとこ、うまく乗っただが、おめぇさんの鼻の頭、4粒乗ってんど」
「じゃ、1粒茶碗に戻すべ」
先生、呆れながら、サトイモに取り掛かりやす。ところが塗り箸(ぬりばし)でうまく芋が取れねぇ。取ろうとすると芋がつるっと滑りやして、ころころ。
「先生様の行動、見ただか? 芋はこうして転がして取るだな?」
周りはいっせいにころころガチャガチャ…。作法も何もあったもんじゃありやせんでな。
なかには、膳から転がり落ちた芋の取り合いまでありやして…。
「あ、おめえさん。おらの芋、取っただな。泥棒!」
「いや、これはおらの芋だよ。おめぇさんのはあっちへ転がって行っただ」
OBなのにゴルフのロストボールを捜してるような、間抜けな光景まであったりしやしてな。
先生、何をやっても真似するんで呆れやしてな。
「おめぇら、いい加減にしろ」
と言わんばかりにちょっと隣を肘(ひじ)でつきやしたら、隣がこの拍子にドンと転びやして。
「…いってぇ。礼式って痛ぇもんなんがなや。おい、隣の。受け取れ」
「おら、そんな礼式、いらねぇだよ」
「そうはいかん。礼式だべ。黙って受け取るべ。で、受け取ったら受け取りも書いて判を押せ」
「じゃ、お手柔らかにお願(ねげ)ぇしますだ」
「そうはいかねぇだよ。それにおら、さっきおめぇにサトイモを取られた恨みもあるでな、覚悟しろや」
ドン、ドン、ドン(どつく音)。パタパッタ(倒れる音)。ドド~ンガドン(恨みでどつく音)。ボタボッタ(血が滴る音)…。
ここんとこ芸が細かいですな。
それに粗忽亭、人のギャグも平気で取りやすからな。
笑わせるためなら手段を選ばず~。
まるでどつき漫才みてぇに次々に伝達されていきやすな。
「…おい、礼式って痛いもんだなや」
で、どんどん隣をどつきやしてな。順繰りにこの怪しい礼式をこなしやすが…。
最後の32番目の男が、
「さぁて、いよいよおらの番だぞ…思いっきりどつくぞ!」
…と肘を出してどつく準備をしやしたが、隣は壁でしてな。
「あんのぅ…先生様よぅ。この礼式はいってぇどこにやればええんだか?」
えー、今日は「本膳」というお噺でご機嫌をお伺いしやした。
おあとがよろしいようで…。
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