かさぶた4

――大して美味い(うまい)ものではない!
それはやけにぱさぱさして、それでいて歯にくっ付き易く食べ難いものだった。
然し、僕にとって、この行為もまた恍惚(エクスタシー)の一つに同化てしまった。この行為は母を非常に吃驚(びっくり)させ、落胆させ、憤怒(ふんぬ)させたが、それでも止められなかった。
至極当然、この恍惚(エクスタシー)を味わう度に、僕は母に怒られた。それ故に、何時しか僕はこそこそと人目を偲んで愉しむようになっていった。
この「かさぶたを毟って口にする」という倒錯した欲望は、一ケ月程経つと、最早「病的」となってしまった。かさぶたを毟るのが日課の一つとなってしまって居たのである。「病み付き」を越えて、既に二進も三進も(にっちもさっちも)行かなくなっていた。
具体的に言えば、毟らずには居られない――毎日、否、日常が同じ衝動にかられ、事ある毎に、左の二の腕が気になってしまう。然も、この頃になると、初めて口に含んだ時と違い、微か(かすか)に味がするのを悟っていた。面白いことに、その日の気分によって味が僅少(きんしょう)ながら違うのである。胡桃(くるみ)の味がしたり、ピーナッツ、栗のような味がしたりと。狂気の沙汰と言うべきか、味がわかると、かさぶたも満更(まんざら)不味い(まずい)ものではないと思ったりもした。
ところで、飽くまでも推測だが、母親は僕が隠れて恍惚(エクスタシー)を愉しんでいたのを知っていたのではないか、と思う。何故ならば、下着の左袖が血で沁(しみ)になった事もあった筈だから。それを注意しなかったのだから、最終的に、余程呆れられたのだろう。
小説1-2(かさぶた)

  *  

何も無いままに月日が経つと思っていたのに、とうとう大事件が起きてしまった。
体育の授業が終り、皆が教室に帰る途中の出来事だった。
この頃になると、已に(すでに)僕のかさぶたも余程大きくなり、僕もそれが出来る度に、詰り一日に何度も毟り続け、然も腕に血が滲まないと気が済まない位エスカレートしてしまっていた。僕は豆粒程にまで成長したそれを毟りながら、一人で歩いていた。
その時、クラスメイトのH君が僕のこの異常な行動に気付いて、奔り寄り、もの珍しそうに覗き込んだ。
僕は慌てて二の腕を手で押さえ隠した。
「何やってるんだよ」
H君は怪訝(けげん)な顔つきで僕に言った。
「い…いや、何でもないよ…」
僕は恥ずかしさでいっぱいになり、小声で口籠った。が、気まずくなるのも嫌だったので。無理矢理作り笑いを浮かべ、H君に言った。
「何でもない、何でもない」
然し、隠せば隠す程、見たくなるのがこの世の常であった。結果、僕のこの逃げ口上が反って彼の好奇心を煽り立ててしまっていたのだ。
――それならば、とH君は僕の腋の下を擽り(くすぐり)出した。
「よせよォ!」
僕は半分怒りながら言ったが、彼の擽りはなおも揺ぎ無い。と、そこで僕は礫(こいし)に躓き(つまづき)、その拍子に薔薇(ばら)の茂みに左半身が嵌って(はまって)しまった。慌てて両手で自身を庇った(かばった)。
「痛えっ…」

僕の左腕を見て、H君は大変に吃驚(びっくり)した。
「どうしたんだよ! 君のその腕!」
皆に聞こえるほど大きな声で、H君は言った。
「…な、何でもないよ…」
僕ははっとして、慌てて二の腕を隠し直した。時既に遅しだった。
自分の悦楽でかさぶたを毟り続けたらこうなったと、正直に言えなかった。仮令(たとえ)正直に言ったところで僕の行為に対して誰一人として同情する者は居ないだろう。寧ろ変人扱いされるのがおちである。
「なんでもない筈がないじゃないか! 君の腕、血だらけじゃないか!」
それでも僕は貝の様に口を閉ざさざるを得なかった。
然し、H君の大きな声は僕に不運を齎した(もたらした)。
「どうした!どうした!」
いち早くS君が心配してやって来て、この異常に気付いたクラスの生徒達が次々と、芋蔓式(いもづるしき)にS君を追いかけ、忽ち小さな人垣が出来てしまった。
僕は腕を隠し続けながらも、
「な、何でもないってばァ」
と、再び笑顔を繕い(つくろい)、言った。だが、
「何でもない訳ないだろう? 君の腕は血だらけなんだから」
H君は皆に吹聴(ふいちょう)してしまった。
「ほら、その腕、どけてみろよ!」
「嫌だよ。大丈夫だよ」
「どけろって!」
騒いでいるうちに最悪の事態が訪れた。
とうとうこの騒ぎに体育の先生までが駆けつけて来てしまったのだ。

(つづく)
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かさぶた3

かさぶたは、それぞれその中心に黒くまん丸の直径1ミリ位の胡麻のような点(実はそこが傷口部分なのだが)がついていて、まるで蛙の卵のようだった。彼らは余りにも小さすぎて、爪の間から取るに取れず、困った。
然し、僕はコンパスの針先のような。尖鋭(せんえい)なもので彼らを取るのにはとても気分が優れなかったし、第一、今は肉体のショックよりも精神的ショックの方が遥かに大きかったので放っておいてしまった。
僕とかさぶたとの初対面は、こうして懺悔の中で交わされた。だが、若しも僕が頑なに先生の忠告を守り通していたならば、多分別の怪我か何かでかさぶたは出来たのだろうが、こんなにも澱んだ(よどんだ)気持ちで彼を迎えることは一切合財無かったであろう。

翌日、右手の指先を見るとかさぶた共は何処かへ旅に出たらしく、彼らの姿は何処にも見当たらなかった。
一体全体何処に旅に出たのだろう。
風呂に入るのも禁止だったというのに…。
小説1-2(かさぶた)

  *  

三日程すると、再び傷口にかさぶたが出来た。どうやら黴菌は入らなかったらしい。僕は嬉しくなった。然し、その嬉しさはすぐに怒りへと変わった。
――先生が嘘をつかれた!
今になって思うと、真に勝手でひとりよがりな思い込みだったとつくづく感じるが、当時の僕の視野は、大袈裟に言えば針の穴から巷間(こうかん)を覗くように、見るもの全てが大きく、聞くもの全てが新しかった。僕にとって先生は、見覚えや聞き覚えのない新しいことを教えて下さる、所謂(いわゆる)カリスマ的存在だったのは間違いないのであって、神は決して嘘はつかれない、と僕が子供心ながら信じていたと同様、先生に対しても、決して嘘をつかれないのだ、と思い込んでいたのだ。
その先生が嘘をつかれた…。
僕は、ある意味では、我儘な少年だったかと思う。勝手に先生をカリスマに奉り、神話が崩れると勝手に先生を恨むのだから。
然るに、僕が三日間、本当に死ぬのではなかろうか――と、真剣に苦悩していたのも真実だった。
この期を境にして、僕が先生をカリスマに奉る気持ちは消えてしまった。
僕は無性にかさぶたを毟りたくなった。
BCGの傷跡を掻いても、ほら、黴菌も入らなかったし死ななかったのだから、という気持ちが芽生えて(はえて)いたから。詰まり、僕がかさぶたを毟るという行為によって、先生は絶対的な存在ではない、という事実がわかるような気がしたのだ。
それでも最初は、先生に申し訳ない、本当に申し訳ない、と心の片隅で思っていた。もしかして僕はたまたま死ななかったのではなかろうか、という恐怖感が頭に、あった。
だが僕は、変に意固地な部分を持っていた。
かさぶたを毟ることによって先生に対しての「絶対神」が消える、かさぶたを毟るのをここでやめたら「元の木阿弥」でまた先生に服従してしまうのだろう、とも考えた。僕は決して「いい子」ではない、と思いながら、思い切って行動に移した。

かさぶたは全部で十八枚。それを上からこまめに毟って行く。毟られたかさぶたは僕の机上(きじょう)に乗せた。そして十八枚のかさぶたを毟り終える頃、母が飛んで来て、よしなさい!、と強い口調で僕を叱った。
「やめなさい、かさぶたを毟るのは。ほら、腕を見てみなさい。血や膿が出て汚いでしょ!」
見ると、掻き毟った痕の一部からは、赤黒い血やら「、透明で粘ついた膿やらがどくどくと流出していた。
「しょうがない子ね」
と言って、母は僕の腕に濡れたガーゼを充ててくれた。
然し、僕にとってこの行為は、大変に気持ち良い、即ち、ただの快楽から恍惚(エクスタシー)に変化して行っていた。最初の懺悔の心は何処かへと消去され、快楽のみが心中を占拠し始め、いつしか、僕は麻薬中毒を起こす患者と同様、かさぶた毟りが病み付きになり、止められなくなりつつあった。
僕はその時、「服従」という心のかさぶたも毟りたかったのかも知れない。この行為は、先生の言いつけを遵守(じゅんしゅ)するのに辟易(へきえき)し始めた「初体験」でもあった。
それにしても、僕の欲求は次から次へと泉の如く湧き出て来て、止まらなかった。欲求が満たされると今度は新たなフラストレーションが生じて来る。
僕は突然、かさぶたとはどういう味がするのか、食べてみたくなった。
それが他人の所有物だと、とてもでないが口にしたくないが、元々自分の身から出たものと考えれば、然も肌の内面から生まれたものだと思うと、断じて汚いものではないと判断し、勝手な見解を以て、チリ紙の上に転がっていた彼らを、予め唾でべとつかせた人差指でくっ付け、纏めて口に入れてみた。

(つづく)

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かさぶた2

「ハイ、君はT君だね?」
医者は僕の半袖の洋服を肩まで捲り(まくり)上げながら、無愛想に言った。僕が「はい」と小さな声で頷くと今度は黙ったまま、僕の腕にアンモニア消毒液を塗ると、例の判子のようなものを取り出した。アンモニアの臭いがつんと鼻を衝いた(ついた)。そして、僕の二の腕に判子を押し付けた。
一瞬、ちくっと、針で刺された痛みを覚えた。僕も彼らと同様、眉を顰めた(しかめた)。が、すぐに痛みは和らいだ。
「ハイ、もう一ケ所」
低い声で医者が言うと、たった今判子を押した少し下あたりにもう一度押捺した。二度目の押捺の際、僕はタイミング良く眉を顰めることが出来た。
「ハイ、終り」
医者は相変らず無愛想に言い放った。僕は何だか嬉しくなった。それは注射が痛くなかったからでも不安がすっかりと払拭(ふっしょく)されたからでも無かった。もちろんそれらもあるが、僕は医者に痛い顔を見せなかったのが嬉しかったのである。詰り、初めて医者に勝ったような気がしたのだ。
「ハイ、お次の方」
地獄の阿修羅に見えた医者が、気のせいか、今までより少しだけ大きな声(トーン)で言ったような気がした。また彼が何だか詰まらなそうな表情をしているようにも見えた。
僕の初めての体験も、こうして呆気なく終ってしまった。不安は期待の裏返し、というわけではないが、僕の不安が莫大だったせいか、終ってみると却って物足りなさを感じるのであった。
僕が教室に戻ると、どうだった? と不安そうな声が掛った。これから未知の体験を強いられる生徒の一人、Y君からであった。
「うん、物足りなまったよ」
僕は、人とは違ったメッセージを彼に贈ってやった。僕の珍答に彼はまるで狐に抓まれた(つままれた)ような、唖然とした顔つきをしていた。
体験後、Y君は恐らく僕の言葉に納得するだろう。
Y君もまた、例に洩れず、やがて使命が終り、明るい顔で教室へ戻ってきた。
小説1-2(かさぶた)

  *  

BCG予防接種を行なってから二週間程経過すると、俄かに僕の二の腕あたりに変化が起こった。周辺がむず痒くなり、居た堪れない。医者を通じてであると思うが、予防接種の後、先生はおっしゃった。
「二週間ぐらい経つと、注射の痕が痒くなった来ますけれど、痒くても決して掻いてはいけませんよ。何故なら、掻いた後の傷口から黴菌(ばいきん)が這入ったり(はいったり)すると大変なことになりますからね。死ぬこともあるのですよ」
僕は、絶対に掻いてはいけない、という先生のお言葉を半ば固定概念として、その誓いを心に植え付けようとしていた。
――如何なることがあっても、決して掻くまい、と。

然し、痒みに直面すると、幾ら先生からのご忠告でも、という気持ちが僕の心の泥濘(ぬかるみ)から姿を現し始めた。同時に、それは僕が生まれて以来、最初の懺悔(ざんげ)だったということを可なり大きくなってから気付くのであった。
それでも僕はぎりぎりまで堪え(こらえ)、出来れば痒みが治まって呉れることを望んだ。だが、我慢すればする程、掻痒(そうよう)感は増して来る。その内に痒みが脳神経にまで伝わり出した。
刺戟(しげき)された脳神経は、頻りに「掻いて呉れ、掻いて呉れ」とせがみ、益々僕を動揺させた。
居た堪れなくなった僕は、遂に右手を行動に移してしまった。
BCG注射を受けた時と同様、半袖の洋服を肩まで捲り上げると、僕は矢庭に禁忌(タブー)の部位に爪を立てた。
それは、大変な快感であった。脳神経の欲求不満は忽ちにして解消し、肌はぴりぴりと爪を立てた部位に心地いい刺戟が走った。
が、すぐに切ない気持ちが胸を過ぎった(よぎった)。なにしろ、僕は先生の言いつけを破ってしまったのだから。
切ない気持ちはやがて後悔へと変化(へんげ)して行く。狂い悶絶(もんぜつ)しても我慢すべきだった、と。
そして先生がおっしゃった言葉が重々しい寺の鐘のように、僕の心に木霊(エコー)となって鳴り響く。
「…死ぬこともあるのですよ…」
果たして、先生がおっしゃったとおり、本当に黴菌(ばいきん)が侵入して行くのではなかろうか?
と思うと、今迄の快楽もすっかりと何処かへ消沈してしまい、次第に僕の心には暗雲が立ち籠められて行くのが判った。

僕は気になって、二の腕を見て更にぞっとした。見なければ良かった、と思った。
そこには、三行三列に規則正しく並んだ丸い瘢痕(はんこん)が、二箇所に渡ってついている筈だったが、僕が激しく引っ掻いた為にかさぶた共は殆んど取れ、決壊し、そのクレーターからは赤黒い血が噴き出していた。
血液は、殆んど丸い玉となってゲル化(凝固)し掛っていたが、中には腕を流れ始めてゲル化したものもあった。
腕の上の小さな惨劇に怯えながら、僕は反射的に右手の指先を見た。
中指と人差指の血のりのついた爪の間に、剥げたかさぶたが幾つか挟まっていた。

(つづく)

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かさぶた1

さて、今回から「かさぶた」を掲載します。^±^ノ

文芸春秋に出したのは、「葉子」と「かさぶた」だけで、ほかに「手鏡」という作品もあったんですが原稿用紙ごと紛失してしまい、今も家のどこかに眠っているかもしれません。
小説1-2(かさぶた)

かさぶた

かさぶたというものは、一度気になりだすと、矢鱈と取りたくなる。
僕が彼に初めて興味を抱いたのは、確か小学三年生の頃だった。それが何月何日かはまるきり覚えていないが、或る日の給食の後、先生は謄写版(がりばん)刷りの『お知らせ』を僕達生徒に配られたことは、今でも記憶に残っている。
そこには刷りたての黒光りした文字で、
  ○月×日、BCG予防接種があります。
  二時間目から、保健室にて行ないます。
と書いてあったが、わら半紙刷りの為その文字はまるで近視の眼鏡をかけたかのように二重に写り、大変読みづらいものだった。
おまけに、これをランドセルにぞんざいに仕舞い込む際、充分乾ききっていなかったインキがベタッと手を汚し、僕を不快にさせた。
この『お知らせ』が各列の前から後ろへと配られている間にも、既に最前列の方から不平(ブーイング)が洩れていた。不平(ブーイング)は次第に後ろへと、やがては教室いっぱいにまで広がっていった。
BCG予防接種とは何であるか、稚い(おさない)僕には判らなかった。が、保健室にて、と書かれてあるのを見ると、僕は条件反射的に畏怖(いふ)せざるを得なかった。ほかの生徒達も然りだろう。
「静かにッ!」
先生は、案の定の不平(ブーイング)を鎮められた。一瞬教室はしいんと静まり返った。
そして、ひととおり教室を見回されると、ゆっくりとした口調で生徒達を諭された。
「BCGは、注射のような、痛いものではありませんよ」
僕は、少しだけ溜飲(りゅういん)がおりた気持ちになった。不平(ブーイング)は先生のひとことによって、それきり治まった。
当日、僕は恐怖と不安を胸に抱いてBCGの順番待ちをしていたが、出席番号が若くなくて良かったと、つくづく思った。僕の出席番号は三十番だったので、当分の間は教室で友達と雑談が出来た。然も、アンモニア臭い脱脂綿を揉みながら保健室から戻って来たクラスメイトから、今回の注射は痛かったかどうか、情報を訊く(きく)ことも出来た。
その点、クラスメイトのA君やI君、U君らは悲惨だ。彼らは皆出席番号が若いので、皆目見当もつかない注射の痛みを、必死でこらえなければならない。彼らは屡々(しばしば)、僕達に嘘を喧伝(けんでん)した。痛くもない注射をさも痛そうな仕種で、
「今回の注射は、飛び上る程痛かったぞ」
と嘯いて(うそぶいて)みたり、また逆に、本当は痛い注射だったのに、口笛を吹きながら、
「全く痛く無かったよ! 楽勝、楽勝」
と、自前のポーカーフェイスを飾ってみたりした。
また彼らはそうすることにより、出席番号の若さのハンデを埋めていたのだ。
暫くして、いよいよ僕の年貢の納める時が来てしまった。例によって、あてにならない情報にも拘らず、敢えて痛かったかどうか訊いてみたが、注射済みの生徒達は揃いも揃って妙な顔つきをしている。保健室に行ったのに、誰も痛そうな顔をしていない。そして誰もが、
「何が何だかよくわからないうちに終っちゃったよ」
と、異口同音の答えを返すのみだった。
――よくわからない、とは何ぞや?
僕は確乎たる(かっこたる)情報も摑めないまま、保健室へ行かなければならなかった。足どりはいつもよりも遥かに重いものだった。数多(あまた)な不安の中で唯一救いだったのは、誰も痛そうな顔をしていなかったのみで、宇宙人に攫われる(さらわれる)寸前のような、未知への恐怖が凌駕(りょうが)していた。
こわごわと保健室の入り口の扉を開くと同時に、僕の眸(め)には医者から注射をされているS君の姿が映り、そのまま釘付けとなってしまった。
医者は無愛想で気難しそうだった。太った体にびっちりとした白衣をまとったその姿は、貫禄というよりも寧ろ怖ろしく(おそろしく)さえ思えた。S君もまた、僕と同様に不安気な顔つきをしていたが、腕を捲くられると覚悟を決めたらしく、ぎゅっと眸(め)を瞑り(つぶり)歯をくいしばっていた。だが、二回に渡って注射らしき行為(こと)をされている最中でも、一瞬眉を顰めた以外は別段痛そうな表情をしていなかったので、内心僕は安堵した。

よくよく見ると、医者のごつごつした手に持っていたものは注射器でなく、何やら判子のようなものであった。
何だろう、と思ってるうちに、僕の順番が廻って来た。

(つづく)

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葉子5

 *

僕は未だに葉子の顔を知らない。そして、葉子も又、僕の本名を知らない。
住所を匿した(かくした)この手紙をポストに投函した瞬間から、復た(また)僕は僕自身の生意気さを呵責(かしゃく)し、後悔した。
折角、葉子が書いて呉れた手紙なのに、結局僕の正体を明かさず仕舞いにしてしまった…。
然し半面、「ドリーマー」を知って欲しい事実、尚且つそれがドリーマーの極まりであるので致し方なかった。
以来、今日迄、浅葱色の封筒が、楽屋のドアに挟まれることは無かった。
だがギター・ケースには例の封筒が眠っている。それが葉子に対する未練ということなのか。

その後、僕が大学を中退め(やめ)、本格的に「ドリーマー」はプロへの第一歩を踏み込んだ。
ロックで飯を食って行かなければならないと思うと、燃えて来る気持ちと裏腹、否が応でもプレッシャーが重く圧し掛かって(のしかかって)来た。
僕はプロになって初めてプロと謂う厳しさを肌で感じた。時には洗礼が、時には淘汰(とうた)が、「ドリーマー」を容赦なく襲った。
初心の頃は「僕の声が何処まで通用するか試したい」といった余裕も、何時しか消え去り、又通用しなくなった。
プロは世間で通用しなければ御祓箱(おはらいばこ)、詰り「ゲーム・オーバー」となる。
プロというのは則ち(すなわち)「追われる者」である。アマとは明らかに違う。それなりのスリルもあるのだが、勝者と敗者とでは、遠慮なく振り分けられる。
そして食い繋ぐために僕もアルバイトをしたが、メンバーの練習と、時折入るキャバレーの興行のスケジュールが合わず、時折衝突し、ぎすぎすしたことも何度かあった。
何時しか「ドリーマー」は窮鼠の気持ちに追いやられて行った。
小説1-3(葉子)
プロになって一年後、「ドリーマー」はハヤマ音楽主催のロック・コンテストに応募し、オーディションを経て、関東地区大会で優勝し、見事、グランプリへの切符を手中に収めた。
然し、グランプリでは見事に落選。
僕が、鈴木が、山口が、沈着冷静な由香ちゃんが、そして終いには関東地区大会ではステージに上がる寸前まで鼾(いびき)をかいて寝ていた奥畑までが、皆あがっていた。
この時初めて、もうひとつのプロの厳しさを教示された。
「井の中の蛙、大海を知らず」
僕達は井戸の中に居る蛙だったのだ。
独りよがりのプロ意識だったということを否と謂う程痛感させられたのだ。いくら僕らがプロと言い張っても主催者側から見ればほんのひよっこに過ぎない。思い込みの自称プロたち、その一撮み(ひとつまみ)の者だけが真のプロに成長していく、それを仲立してく事がこのコンテストの目的なのだ。
然るに僕達はその場でさえもあがってしまった。真のプロへの登竜門を自らのプレッシャーで閉ざしてしまったのだ。

また似非(えせ)プロの道は続く。
だが、僕達は後悔したくない。確かにグランプリで落ちたのは事実で、それを受け止めねばならないが、この屈辱を糧(かて)として、踏み台として、乗り越えなくてはいけない。そしてもっと精進し、陶冶(とうや)して行き、次の機会までには是が非でも誰もが認める真のプロに・ロッカーになろうという事を、反省会で僕達は誓い合った。

  *  

現在、僕達は、いつもの市民会館の見慣れたステージの上でコンサートを開催している。
コンテストに落ちて以来初めてのコンサートだ。
思えば、最初ここに上がった時、矢鱈と会場が広く感じてならなかった。客席の視線にも畏怖(いふ)していたっけ。

その日の開催前、楽屋のノブに、手紙が挟まれていた。
例の、浅葱色の手紙だ。
内容は未だ知らない。

コンサートは次第に佳境に這入って行く。
そして、いよいよラスト・ソング…。

ロック・コンテストでも歌った唄だが、今回は葉子だけに捧げる…。

 君が嫌いになったわけじゃないんだ 
 ただ これ以上 愛が続くと 
 体重ねた夜の数だけ 
 きっと 君を つらくさせる 
 サヨナラ、マイ・ジュリエット

歌いながら僕は客席を必死になって探し、とうとう女性を見つけ出した。
涙流してた、一人の女性を…。 

(葉子・完)1986年8月15日校了

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葉子4

  *  

僕は、心に楔が打ち込まれていたのを憶い(おもい)出した。
昨夜、葉子から貰ったファンレターが僕の脳裡に甦った。
――僕は幸福な気持ちで一杯だ。何故ならば、僕には、僕のことを知りたがって呉れている女性(ひと)がいるから。同時に、恥ずかしい気持ちで一杯でもある。僕は、それほど未だ人間的に出来ていないから。今やっとプロになる決意をし、スターと地点に並んだところ。僕はまだまだ小さいのに――。
その夜、僕は、部屋の卓(テーブル)に向かって二つの書きものをしていた。
大学の退学届と、葉子への返事の手紙である。

  葉子へ  
手紙どうもありがとう。僕がバンドを組んで以来、初めてのファンレターなので、大変に嬉しかった。ありがとう。
でも、悪いけど、今は葉子とは付き合えない。今の僕は君を愛するには余りにも未熟すぎるから。僕の我儘を許して欲しい。
葉子、きっと君は僕の虚飾しかわからない。ステージでは格好つけていても、本当は、誰よりも格好悪い男だということも。
実は、僕は今日、大学を中退する決意をした。真意は進級の単位が取れず、進級できなくなったのだが…。
でも同時にやっとこれで吹っ切れた。
僕はこれからプロとしてやっていく。
吹っ切れる前までは悶々(もんもん)としていた、そんな小さい男なのだ。些細(ちっぽけ)な悩みでも苦悩する、これ程小さい男なのだ。
でも、何時か(いつか)、僕の人生(みち)が崩れない位頑丈になり、君が安堵で歩ける程成長したら…。その時は僕と一緒に人生を歩いて欲しい。
僕は葉子を忘れない。決して忘れない。僕を知りたがって呉れた女性(ひと)など、生まれて此の方、一人も現われなかったからね。

小説1-3(葉子)
ここまで書いて、ふと楔(くさび)の正体が僕には解った。
露骨な話になるが、僕もいろいろな女性と知り合った。力一杯抱きしめた女性も居たし、街外れ(まちはずれ)のモーテルで後朝(きぬぎぬ)を迎えた女性も居た。
ところが誰も皆、僕の本音を知りたがらなかった。
史上最高だと思ってた恋人の信子さえも本音を知らぬまま通り過ぎて行った。
信子は、大学を中退した後、俄かに連絡が取れなくなってしまった。
三日後、彼女のアパートを訪ねて行ったら、大家さんが出て来て、昨日群馬の郷里に帰ったという事だった。
急に実家の旅館を継がなければならなくなったという。
ただ僕は彼女の実家がどこか知るまでの仲ではなかったので、その場で右往左往するばかりであった。

  追伸  
僕達は今迄のコンサートで、夫々(それぞれ)、個人の名前を秘匿し続けて来たが、今後もずっとこの「仮面舞踏会」を続ける心算(つもり)だ。
何故なら、僕たちの名前を知ってしまう瞬間からきっと「ドリーマー」が「ドリーマー」でなくなるだろうから。
ステージに上がったら全員名無しの権兵衛ということにしてあるんだ。
葉子。生意気だと思われるけど、僕達は皆から名前を覚えてもらいたいわけじゃない。本当に、僕たちのロックを知って欲しいんだ。
――でも、何時か僕と葉子が一緒になり歩んだら、その暁には僕の本名を明かそうと思っている。
  「ドリーマー」のボーカリスト

(つづく)

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葉子3

 *  

「キャンパスを歩いても、楽しくない!」
一年程前、僕と付き合っていた日置(ひき)信子がぽつりと呟いて、学校を退めた(やめた)。
僕は信子を佐けて(たすけて)あげられなかった。
でも僕はこれで良かったと思っている。仮に第三者から僕を冷酷者と叱責されようとも。仮に僕が信子の相談に乗ってあげたとしてもそれが彼女にとって正しいか。
人間が人生(みち)を切り拓く時、精神的堕落の嘴(つるはし)を握らない限り、掣肘(せいちゅう)などすべきでない。譬えその先が悪路であろうとも、断崖絶壁であろうとも、それはあくまでもその人だけの人生なのだから。
それでも僕は葛藤(かっとう)していた。
余計なお世話的行為をしなくて良かったと心の大部分で安堵している僕が居る一方で、信子を佐けられなかった自分の器の小ささに心のどこかで懺悔している。それが自己矛盾とは解っていても。
彼此と考えているうちに一時限目の心理学の授業が終り、僕は後ろの席から回って来た出席カードに、学籍番号と名前を書いた。
久しぶりの授業にも耳が入らなかったのは常時ではあるが、今日の僕は心理学の講義を聴講するよりも、僕自身の、所謂(いわゆる)内面的心理学を、独自(ひとり)で学んだ方がましだった。
やけに明るい、授業終了のチャイムが、講堂狭しと鳴り響く。
教科書を見せて呉れた隣の見ず知らずの女の子――尤も(もっとも)教科書など上の空で全く見ていなかったが――彼女にお礼を言って、これなら友達に代返してもらったほうが良かったかな、と思いながら、僕はそそくさと講堂内の一教室を後ろのドアから出て行った。
二時限目、僕はアン・ラッキーだった。
何時も(いつも)は休まないはずの言語学の教授が今日に限って休講だった。おまけに前々日、友人の高橋勉を通じて言語学教授から伝令があった。それは、僕にはもう後がないということだった。
この授業はチェックが厳しく、代返も出来ない。僕は前期のテストであるレポートを出さなかった。教授は、後期に少しは出てくれば高下駄を履かせるから――という目溢し(めこぼし)を考慮してくれたのだが、一向に僕が授業に出なかったので、明後日(あさって)の授業に出ない時には、遠慮なく落第す(おとす)らしいぞ、と勉までが僕を脅す。
然るに、今日は休講であった。
あまつさえ、この講義が僕にとって留年かどうかの最後の砦(とりで)だった。
この時、僕の魂は聞こえぬ音と共に、何かが吹っ切れた。桎梏(しっこく)が外された気分だった。
僕は、このキャンパスでは、信子と同じ運命を辿る決意をしていた。
同時に音楽を生業(なりわい)として行こうという大きなアーチが心に架けられた。
これ以上学生を続ける心算(つもり)は、最早消え失せた。
小説1-3(葉子)
僕は、無意識的にキャンパスを見回していた。
食堂へ続くペイヴメント(pavement=舗道)が、緑のグラス(grass=芝生)が、灰色のクーラー(cooler=留置所、ここでは校舎)が、悉く(ことごとく)色褪せて(いろあせて)見えて、検めて(あらためて)僕を失望させた。
既に、そこは、大学入試を受けた頃、「受かればいいな」と羨望(せんぼう)の眼差し(まなざし)で見た処の、或いは、見事大学に合格(パス)し、入学したての頃、履修科目の選択をした帰りに見たところの、そんな煌びやかなキャンパスでは無かった。
恐らく、入学したての僕は学生生活に於いて何も彼も(なにもかも)が真剣だった、のかも知れない。
だからこそ、キャンパスの彩(いろ)が鮮やかだったのか。
僕は忘れては居ない――若草萌ゆる緑、燦燦(さんさん)と降り注ぐ太陽光線の白、履修で取った体育のテニスの授業中、容赦なく僕の眼に入った砂塵(さじん)の茶色――何もかもが鮮やかだったことを。
如何に、真剣さが薄れ、マンネリ化した毎日を過ごしてきたか、解った。
そもそも、女の子が多いという理由だけで文学部を選んだ軽率な行為こそが僕の諸悪の根源だった。
そして、引導が渡された。
でも僕はその引導により助かった。心の閊え(つかえ)がおりた。
となると、言語学教授こそが、僕の本当の恩師なのかも知れない。

今、僕には、はっきりとした野望がある。
プロのロッカーになりたい。
プロを目指すということを前提として結成した「ドリーマー」に、僕は今後、プロとしてどれだけの実績を積み上げて行くのだろう。どれだけの期待に応えられるだろう。
そう思うと不安は未知数だが、それ以上に、僕は久しぶりに晴れやかな気持ちになっていた。
ふと見上げれば、雲ひとつない晴れ渡った秋の空である。
先刻(さっき)まで絶望的に見ていた大学の風景は早や眼中には無い。そして、大学生活の終焉(しゅうえん)にも、もう未練は無い。

(つづく)

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

葉子2

  *  

翌朝、僕は眠い目を擦りながら学校へ向かった。
僕は昼間は一応大学生だが、授業なぞはあまり参加していない。
大学受験では、文学部を選んだのだが、「文学部」らしきことは、悲しい哉、行ったことがない。
僕が大学受験時(じ)に文学部を選んだ理由は、女の子が多いからというだけのことで(僕の高校は男子校だった)、動機は全く以って不純なのである。その内に神様に依り天誅が裁る(くだる)かも知れない。
ところで、現在のバンド「ドリーマー」の連中との付き合いは、去年の秋に遡る。
それ迄、僕は大学のサークル、「ロック同好会」に属していた。唯(ただ)、皆が恬淡無欲(てんたんむよく)とでも言うのだろうか、それとも目標が定まらないとでも言おうか、僕には「音を楽しむ」のを生業(なりわい)と出来るサークルと思えなかった。週に、二、三度練習をして、秋の学園祭に備える、唯その程度の、徒然なる任(まま)に時間に流されていく、それが嫌だった。何時(いつ)サークルをやめようか、迷っていた矢先、僕が小ぢんまりとしたいい珈琲店(みせ)だなと思いつつ、何気なく入った「ルフラン」で僕の人生が変わった。

「ルフラン」のカウンターから、髭もじゃのマスターがスパゲティーを作るのを呆け(ぼけ)っと見てた時、急に後ろから肩を叩かれたのである。
最初は、気のせいかと思って、なおも呆けっとしていると今度は二、三度、ポンポンと叩かれた。やけになれなれしいこの男こそ、鈴木だった。
鈴木はこの珈琲店のウェイターをしていた。
それにしても、余程肩を叩くのが好きな奴である。話は少し横道に反れるが、彼にサイドビジネスで按摩でもしたらさぞかし儲かるかもよ、と冗談で仄めかしたことがあるが、それ位、肩のツボを叩くのが上手い(うまい)。
兎に角(とにかく)、その鈴木の話に因れば、ロックバンド「ドリーマー」を結成したのだが、ボーカルが一人足りない、否(いや)、歌のうまい奴は数多(あまた)いたのだが、彼らは悉く(ことごとく)「十把ひとからげ」で所謂(いわゆる)、個性のない連中ばかりだったのだ、ということらしい。
焼きスパゲティーを註文(ちゅうもん)した僕のハスキーな声に惚れた、直感的に気に要った(きにいった)、と鈴木はそう言って笑った。
笑った後、刹那(せつな)、二人の間を沈黙の澱んだ空気が流れたが、やがて鈴木から唇を動かした。
「…詰りその、俺達は、はっきり言うとプロを狙っている。中途半端な気持ちは毛頭ない!…というわけだ」
その言葉に重みがあった。また、丁度僕もサークルに辟易(へきえき)とし、何時(いつ)学校のサークルにピリオドを打とうかと思った矢先だったので「渡りに船」だった。
僕は二つ返事で、躊躇なく肯った(うけがった)。
鈴木は暫く唖然として、僕の顔を凝視していた。『プロを狙っている』と重責のある言葉を口にしたのに対して、いとも簡単に僕が諾った(うべなった)からであろうか。『すぐには答えかねる』だの、『少しは時間が欲しい』という答えが返って来る皮算用を予想していたのだろうか。
僕も又、吃驚(びっくり)した。僕の答えに対し、鈴木がこれ程驚愕するとは思いもよらなかったからである。
――二人の間を再び沈黙の時間が、今度は徒に(いたずらに)流れた。
小説1-3(葉子)

その静寂(しじま)を破ったのは、マスターだった。
「焼きスパ、お待ちっ。男同士のお見合いなら気持ち悪いから外でやっとくれ!」
二人の四次元空間を引き裂いて、鮸もない(にべもない)ガラガラ声が、厨房からした。
「全くマスターは口が悪い」
漸く(ようやく)、鈴木が笑って言った。可笑しくて、僕も思わずぷっと吹出してしまった。
お互いの心が初めて和やかに通じた。
僕は、自分の声を矜持(きょうじ)に思うことは毛頭ない。が、プロになりたいという意思に譎詐(けっさ)をしたくもない。厖大(ぼうだい)な目標が出来た僕が、何処までやれるか、試してみたくなった。
  TRY IT NOW!  
「ルフラン」に来る前に、駅前のゲームセンターでテレビゲームをした時、画像から流れてた文字が、復(また)僕の脳裡に甦って(よみがえって)、浮かんで来た。
――さあ、挑戦し給え!
誰が造ったかは知らないが、このコンピューターの冷血漢の文字さえも、とどのつまりは僕の無言の代弁者に過ぎなかったのだ。

(つづく)

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

葉子1

昔、文春に投稿した小説をこの場をお借りして・・・。

小説より拙文だってば。x±x

身の程知らずにもほどがあるぞ~(゚Д゚)ノx±x
小説1-1

作品は全2作です。
「かさぶた」
小説1-2(かさぶた)

「葉子」
小説1-3(葉子)

では、「葉子」から・・・。

 序

この小説はフィクションであり、登場する人物、場所などは一切架空のものです。ついでに、「僕」という人物も架空です。小説を書いている「僕」は、小説に書かれている「僕」ではありませんのであしからず。何故なら小説を書いている「僕」はもっと侘しいひとなのです。

  葉子

 あなた様へ

突然の私の気紛れな手紙に、あなた様はさぞおどろかれたことでしょう。お許しください。でも、私はどうしても書かねばいられない心境なのです。
だって、あなた様は、ステージに立って、歌を歌って下さるだけ…。私は、もっと、あなた様のことを知りたいのに…。それに、もうコンサートを三度も催していらっしゃるのに、名まえさえも教えて下さらないのですね…。意地悪!
ところで、初めてあなた様をお見掛けした切掛(きっかけ)は、「ルフラン」という珈琲店で、私がホット・コーヒーを啜っていた時に、何気なく、山の写真が飾ってある額縁の下にあったポスターを見掛けたのです。このようなことを言っては失礼かと存じますが、最初は興味半分で観(み)に来たのです。だけど、あなた様のその、ハスキーな声(ヴォイス)を一度聴いただけで、どうやら、私の脳裡に、あなた様が焼きついてしまったようで、どうにも消えないのです。
ところで、二度目のコンサートで、あなた様が最後に歌われた詩が、好きです。特に、

  君が嫌いなわけじゃないんだ 
  ただ これ以上 愛が続くと
  体重ねた夜の数だけ
  きっと 君を つらくさせる…
  サヨナラ、マイ・ジュリエット…

とあなた様が歌われた時、不覚にも、私の目頭から、涙が、は・ら・り…と零れてしまいました。
実は、一年前、私が短大を卒業する年、二年間付き合っていた彼と別れる間際、彼が私に最後に言ったことばどおりだったのです。
御免なさい。勝手なことばかり書いてしまって。
この手紙が、あなた様の許(もと)に届き、読まれるかどうか、正直言って不安なのですが、もしあなた様の、そのハスキーなお声で読まれることがあったら、幸せです。
もしも私の今書いている手紙が、お気に召さない時は、破いて捨てられても構いません。私、あなた様の手で破かれるなら、幸せです。どうか、バンド活動を頑張って下さい。ご自愛のほどを。
                                        葉子

   *   

楽屋のドアに手紙がそっと挟んであったのを僕が初めて気付いたのは、コンサートの反省会も兼ねた打ち上げパーティーが終り、四畳半一間のボロ・アパートに帰ろうとして、楽屋のドアノブに手を掛けた時であった。浅葱色(あさぎいろ)の葉書型の封筒に、『ハスキー・ヴォイスのあなた様へ』とだけ書かれている。そして裏面には、横文字で、住所とその下に『高木葉子』とあった。
葉子――。
僕がこの手紙を茫然としながら眺めていると、横合いから、リードギター担当の鈴木が、
「よっ、色男!」
と、思い切り右肩を平手(ひら)で叩き、一瞬僕を見てにやっと笑い、やおら楽屋から出て行った。「ドリーマー」の良きリーダーである。
「熱いねっ」
「お疲れさまっ」
「頑張ってねっ」
続けざまに、ドラムス担当の奥畑が、サイドギター担当の山口が、しまいには、キーボード担当の、普段おとなしい由香ちゃんまでが、僕に一声を掛ける序(ついで)に、右肩の、先刻(さっき)鈴木が叩いた辺りと丁度同じ箇所を強か叩いて楽屋を出て行く。
それでも、わざと楽屋の明りを消して行かない彼らの懇情が嬉しかった。手紙を読み終えた頃、市民会館は、静謐(せいひつ)なビルに戻っていた。
アパートに帰ったが、何時(いつ)もと何ら変哲ない。
買ってから未(ま(だ二年目なのに、已(すで)に一部の放送局が映らなくなってしまった11吋(インチ)小型テレビ。脚が一本折れてしまったので、繋ぎ目を布テープで雁字搦め(がんじがらめ)にした、炬燵(こたつ)兼用(とは言っても、邪魔になるだけだから夏季は赤外線電気を取り外す)の食卓。録音機構が壊れ、ダブルカセット式にも拘らず、ダビングさえも出来ないラジオカセットプレイヤー。開けても黴(かび)しか詰まっていないような小型冷蔵庫。縁の欠けた茶碗やらウイスキーを買ったらおまけに付いて来たコップやらをガサツに並べた、手を付くだけでみしみしと軋む(きしむ)戸棚。安いという理由だけで質屋から衝動買いをしてしまった、全く用途が無く今は処理に困っている顕微鏡。えとせとら。干支瀬戸等(えとせとら)。
廃屋寸前で、うんざりとする。
おまけに窓の外は梅雨模様。間もなく雨が上がれば、雨後の筍(うごのたけのこ)ならぬ、雨後の茸(きのこ)が湿りがちの畳の間から生えてくるのではないだろうか、とさえ思ってくる。
ただ、散乱としている僕の部屋の隅の、今にも崩れそうな壁に立て掛けてあるギヴソンのギターだけが、僕の心を和(なご)ませてくれた。
慮る(おもんばかる)と、このギターが、僕の青春の全てだったという気がしてならない。
そのギター・ケースに、例の浅葱色の封筒を仕舞っておいた。
何も遣ることがないので、取り敢えず寝床を敷くことにした。襤褸襤褸(ぼろぼろ)の蒲団と枕を力任せに押入れから放り出すと、蒲団からはくすんだ色の真綿が、枕からは活性炭のような蕎麦殻(そばがら)が、虱(しらみ)の出てそうな畳に散らばった。堪らない程、うんざりとした。今更掃除など、と思い、僕は誇り塗れ(まみれ)の笠がついた親子電球のスイッチの紐を引っ張り、消燈した。
眸(め)を閉じると、葉子の達筆とまではいかないが均整のとれた文字が幻れて(あらわれて)きた。
葉子…。
先刻から、君のことばかりが気になっている。君の顔も知らなければ、素性も、性格も知らない。
然るに何故(なにゆえ)、何一つ知らない君を気にしているのか。
斯くして(かくして)、僕の心に一本の楔(くさび)が打ち込まれたのである。

(つづく)

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

ありふれた雑炊

さて、そしてありふれた雑炊です。

昨日作った鍋の残りで、雑炊を作ります。

ちなみに、私は雑炊には、ご飯だけでなく、餅も入れました。
白い餅と蓬餅です。^±^ノ
グルメ26-1
これを入れましたよ。

う~ん。それにしても、まともに作ってるぉぃらが怖い。
近々大地震か?^±^
あと、用意するのはご飯とわけぎにネギですな。
鍋には鶏肉のスープが沁みこんでますからね。
グルメ26-2
日本人ならご飯ですよね。^±^

まずは餅を入れたあと、胡椒でちょっとだけ味付け。
グルメ26-3
これは辛口好みですね。

その後ご飯を入れまして。^±^
グルメ26-4
もう、これは、ワサッと入れちゃいましょう!

さらに刻んだ下仁田ネギをぱっぱと入れる。
グルメ26-5
ここで注意・・・。餅は冷凍のものを使いましたので最初に入れましたが、冷凍してない餅でしたら下仁田ネギと一緒に入れるのが無難でしょう。
餅が溶けちゃいますからね。x土x
「も~ちっと、なんとかならなかったの?」
って言われても、後の祭りだ、ピーヒャララ。

それでもって・・・。
グルメ26-6
これから、沸騰するまで、そのまんま・・・。

鍋がぐつぐつと沸騰したら急いでふたを閉めます。
グルメ26-7

そして、ほぼ同時にガスを止める。
10秒以内で止めてください!
ガスターテン!^±^ノクダラネ~
グルメ26-8
つまり、少し蒸(む)らし、冷(さ)ますわけですね。

そうそう、それから欠かせないのがゆずポン酢。
これは昨日の鍋にも入れました。
これを適当に入れましょう。
私はドボドボ入れましたよ。^±^ノ
グルメ26-9

最後にわけぎをさっさと入れてね。
あ。それから・・・愛情も!
グルメ26-10
これで完成です!^±^

出来たらお茶碗に盛り付けて、梅干を加えましょう。
グルメ26-11

で、お好みによっては唐辛子も振りかけてください。
グルメ26-12

これで、ありふれた雑炊の完成です!
ゼヒ~!^±^ノ
グルメ26-13

いやいや、これは最高においしかったですよ。

本当は、鍋を閉じる寸前に卵を溶いて入れるとよかったんですけどね。

・・・というよりも。
ヲイヲイ、真面目にやっちゃったよ。^±^
でも、必ずしも、手際がいいわけではないので。x±x

テーマ : 作ってみた
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